「おおっ!? 戻れた? 俺の体だよな。鏡は無いか?」
歓喜のあまり大声をあげる、俺の友人。
「ホントだ、俺も戻ってるよ」
俺も、驚いたように声を出す。
ふふっ、予想通りだ。俺は笑いをこらえるのに必死だった。
俺は小原隆志。どこにでもいる普通のサラリーマンだ。いや、もう普通じゃなくなるのかもしれないな。というのは、会社の帰りに不思議な機械を見つけたことから始まる。
「変な機械だ。何だこれ」
だが妙に気になった俺は、それを拾って持ち帰った。
「変な機械だな、どこを触っても動かないし」
機械いじりが好きな俺はその機械を触ってみるのだが、何も反応しない。
あきらめて捨てて来ようかと思ったときに、友人の健吾がいきなり俺の家にやってきた。
「おーい、小原。お金貸してー」
「いきなり来てそれかよ」
「彼女と急にデートすることになっちゃって。給料日前だからお金ないんだ」
「まったく」
健吾はこうやってよく金をせびりにくるが、きっちりと返してくれる。だからこそ友人関係を保ってるわけだが、いつもこうだとうんざりもしてくる。
「ほらよ。たまには金を貸さないようにしてくれよ」
「いいじゃん、隆志彼女いないし、金余ってるだろ」
悪意は無いと分かっているが、その言葉に俺はイラついた。好きで彼女がいないわけじゃない。お前みたいな顔の良いやつならともかく、俺のような平凡な顔をしたやつが彼女作るのがどれだけ大変か。一度、俺のような立場になってみたら良いんだよ。
その時、手に持っていた機械が反応した。
『入れ替わり対象者
稲葉 健吾
入れ替わりますか? ⇒はい いいえ』
画面に文字が映る。
「何だこれは? 俺の気持ちでも読み取っているのか」
俺ははいを押した。
「な、なんだ?」
「え、あれ、俺がいる?」
気がつくと目の前には俺がいた。
「な、なんだこれ!?」
俺と健吾は体が入れ替わっていた。
健吾と入れ替わった俺は、最初は彼女持ちのイケメンになったことで喜んでいたが、健吾の彼女があまりにも浪費家だったり、健吾の仕事がなかなかきつかったりと、たった数日で健吾の大変さを知って、元に戻りたいと思うようになった。
「たしかあの時はこの機械が光ったんだよな」
俺は入れ替わった原因がこの機械だと考えていた。しかしどうしても使い方が分からない。そんなとき1通のメールが入ってきた。健吾の彼女からだ。
『健吾、今度またデートしよ。で、前言ってた指輪が欲しいから買ってよね』
人が悩んでいるときに、この女は。人に買ってもらうことしか考えていないのか。一度買うほうの立場になってみればいいんだ。
そう考えていると、またあの装置が反応し、
『入れ替わり対象者
田中 夕貴
入れ替わりますか? ⇒はい いいえ』
と画面に表示された。田中夕貴とは健吾の彼女の名前だ。
「そういえばあの時も……まさか……?」
ふと閃いた俺は、いいえを押した。そして健吾を呼び出した。
そして冒頭にもどる。
「いやー、元に戻れてよかったよ。まさか頭をぶつけて戻るなんてな」
「昔読んだ漫画で見たんだ。上手くいくとは思わなかった」
健吾には頭をぶつけて戻るという風に偽装した。しかし、本当はあの拾った機械のせいだということは分かっている。ある条件になると機械が反応し体が入れ替わる。その条件というのは
『相手に自分の立場を分からせたいと強く思う』
ということなのだ。
今回、健吾に対して、浪費家の彼女を持った男の立場になってみたらいいんだと強く念じたところ、予想通り機械が反応した。そして健吾と頭をぶつけると同時に『はい』を押したのだ。
「これからは頭ぶつけないようにしないとな、それじゃあな」
健吾は自分の体に戻ったのが嬉しいのか、すぐに飛び出てしまった。
「ふふ、さて」
面白い機械を手に入れてしまった。これがあればいろんな人になれる。俺はまるで遠足の前日のようにわくわくして、その日は眠れなかった。
「ふわぁ……」
大きなあくびをしながら会社に向かう。いつもは憂鬱な通勤時間。しかし今日は楽しみで仕方ない。
「誰と入れ替わろうか」
自分の体になんか未練はない。俺は新しく生まれ変わるんだ。
「何にやにやしてるのよ、気持ち悪い」
俺はいつの間にか会社に着いていた。そして、同期入社の田原真紀に声をかけられた。
「ちょっと考え事してただけだ。それと、気持ち悪いはないだろ!」
「ぼーっとして、だらしない顔をしているからよ」
田原はうちの会社の役員の娘だ。縁故採用のやつなんかどうせ使えないやつだと俺は勝手に思っていたが、田原はどんどん業績を挙げ、いつの間にか次世代の管理職候補だ。入社時から田原に悪態をついていたおかげで、俺と田原は顔を見るたびにこうして言い争っている。
「ふん」
わざとらしく声を出したが、田原はそれを無視して女子更衣室に向かった。悔しいが田原は美人だ。上司部下からも信頼が厚い。俺とは大違いだ。そうだ、俺みたいに誰からも信用されないような立場になってみたらいいんだ。
するとあの装置が反応し田原の名前が表示されている。俺は画面を見て口元を歪ませながら『はい』を押した。
俺はOLの制服に着替えていた。ロッカーに備え付けられている鏡を見ると、あの憎くて綺麗な顔の田原が映っていた。
「よし、成功したな」
俺は小さくガッツポーズをした。
「おお、胸がある」
男には無い柔らかなそのふくらみ。それが俺にぶら下がっている。
「柔らかい……、これが女の……」
力を加えると形がくぼみ、緩めると元の形に戻る。
「……っとそんなことをしている場合じゃないな」
女の体を楽しむのは良いが、今は俺となった田原がどんな行動に出るかが心配だ。俺は女子更衣室から出て、田原を探す。
「え、私がいる?」
俺の姿が見えた。さて、変に騒がれるのも困るな。俺は少し考えて田原に声をかけた。
「まだそこにいたの。小原くん。ホントに行動するのが遅いわね」
俺は田原の真似をした。いつもいろいろイヤミを言われているんだ。これくらいの真似はできる。
「え、あなた? 私!? ……小原くんじゃない?」
「小原くん、本気でおかしくなったの?」
「い、いえ…」
「そう、じゃあ、ぼけっとしてないで早く仕事しなさい」
「あ、うん……」
そういうと田原は俺のデスクに座る。頭のいい田原のことだ、身体が入れ替わっていると予想したんだろうな。だから俺は田原の真似をして、混乱させたのだ。
田原としての仕事は楽しかった。ちょっと失敗しても、周りのやつらがフォローしてくれる。逆に俺となった小原も仕事はしているようだが、誰も手伝ってくれないので中々上手くいかないみたいだ。
「お先に失礼します」
終業時間になると俺は一目散に帰り支度をした。今日はこの体を堪能するんだ。女子ロッカーでOLの制服から私服に着替えていた。そこへ
「田原先輩……」
「ん?」
声をかけられた先には、新人の田丸頼子ちゃんがいた。今年入社の女性社員の中でダントツに可愛い顔をしている。田原とはまた違った魅力のある女だ。
「何、頼子ちゃん」
「あの時の返事、聞かせて下さい!!」
「返事って?」
「わ、私とお付き合いしてくれませんかという返事です……。やっぱりダメですか…、女同士なんて…」
へえ、頼子ちゃんはそんな娘だったのか。ここは彼女の望みを叶えてやるか。
「頼子ちゃん…」
俺は俯いている頼子ちゃんの肩に手をおいた。そして耳元でささやく。
「うれしいわ。私を選んでくれて」
その言葉に頼子ちゃんの顔が明るくなる。
「え、それじゃあ…」
「ええ、付き合いましょ、私たち。そうだこれからご飯でも食べに行かない?」
「は、はい!ぜひ!」
そう言うと頼子ちゃんは、子犬みたいにパタパタと身支度を始めた。
「せんぱあ~い」
頼子ちゃんとの食事の後、一人暮らしだと言う頼子ちゃんの家に遊びに行くことになった。そして勢いで俺と頼子ちゃんはベッドへと流れ込んだ。もともと田原のことが好きだった頼子ちゃんは、嫌がるそぶりも無く受け入れた。
「ああん……、イイ。頼子ちゃん」
職場で一番若くて可愛い頼子ちゃんが、俺の前で一生懸命奉仕してくれる。そんな姿に俺の、田原の体も興奮してくる。
「きもちいいですかぁ~、センパイ~」
頼子ちゃんは、気持ちいいところを的確に攻めてくる。女の体になったばかりの俺は、頼子ちゃんの攻めに抵抗できないでいた。
「せんぱい…、カワイイ」
「あん……、ああん…」
頼子ちゃんの手や指が、俺の体をはいずり回る。そして
「あ、あああああん!」
俺は頼子ちゃんの手でイカされた。
「はあっ、はあっ……」
「センパイ~、手だけでイッちゃうなんて、ウブなんですね」
まさか頼子ちゃんがここまでテクニシャンだとは思わなかった。俺はぼーっとする頭で考えていた。
「ねえ、私、まだ物足りないです。もっと愛し合いましょうよ」
そういうと、また俺の体にすり寄ってくる。
「あん……」
イッて敏感になった体が反応する。
「せんぱい、もっと~」
イッた体でこれ以上は限界だ。
「もっと~」
冗談じゃない、これ以上は限界だとわかってほしい。
そう思った瞬間、装置が反応した。
「まさか…」
頼子ちゃんを振りきり、火照る体でふらつきながら、あの装置を手に取った。そこには田丸頼子の名前と入れ替わりますかの文字が見えた。
俺は迷わずはいを押した。
「あれ? 何で私、ここに? あ…?、ひゃあん」
俺はベッドの上に座っていた。体の火照りが消えている。そして遠くで艶やかな声が聞こえる。
「ああん、体が…熱いのぉ……」
声を上げているのは田原だった。そして俺の姿は
「わ、私が……いる!?」
田原よりもハリのある肌、ショートカットの髪。俺は頼子ちゃんになっていた。
「あなた、頼子ちゃん? 私、田原よ」
俺は田原のふりをして頼子ちゃんに話す。
「え、センパイ?」
「ええ、あなたが私の姿になって、私があなたの姿になっているわ」
「私がセンパイの姿に……」
頼子ちゃんは自分の姿をじっくりと観察している。
「えへ、センパイの体だ……ああん」
突然、自分の体をまさぐる。
「ちょ、ちょっと?頼子ちゃん?」
「センパイ、何で入れ替わったかわかりませんが、このことは二人の秘密にしましょう!」
「え、ええ……」
頼子ちゃんにまくし立てられ、たじろぐ俺。
「じゃあ、私は、センパイの家に帰りますね。心配しないでください。ちゃんとセンパイの振りをしますから」
「あ、うん」
そういうと、頼子ちゃんは田原の服を着込む。
「えへへ、センパイの服、センパイの香り……」
ぶつぶつと言いながら、頼子ちゃんは出ていった。
「何だったんだ、いったい」
頼子ちゃんのハイテンションに驚く。田原になれたのがそんなにうれしかったんだろうか。たしかに田原は女子から見ればカッコいいのかもしれないが。
「男からしてみれば、やっぱり頼子ちゃんだよな」
鏡の前に立つ。ぱっちりとした目が、いやらしく歪む。手をスカートの中にいれ、ショーツの上から、アソコを指で押さえる。
「ん……、何だ、結構感じてたんじゃないか、頼子ちゃん」
軽く刺激を与えただけで、じわっと股間が熱くなり、ショーツが愛液を吸い込む。
「さんざん頼子ちゃんにやられたからな。今度は俺がやってやるぜ」
鏡の中の頼子ちゃんは、股に手を当てて、物欲しそうな顔をしていた。
「うわ……エロい」
自分の姿に興奮した俺は、服を脱ぎ捨て、アソコに指を入れる
「ああん…すごい…」
田原の体とは比べものにならないくらい、体が反応する。
「あん、頼子ちゃんって……こんなに…エッチな……子だったとは……」
くちゅくちゅと溢れでてくる愛液が、床にシミをつくる。
「きもちいい、きもちいいよう……」
自分の指に向けて無意識に腰が動く。
「ん…あああああん!!」
俺は今日2度目の絶頂を迎えた。
「はあ、はあ……あう……」
体が言うことをきかない。俺は裸のまま、床に横たわっていた。
「センパイっ! 私の体を楽しんでくれてうれしいです!」
田原姿の頼子ちゃんが俺の目の前に現れる。
「ひゃ!? 頼子ちゃん!? 帰ったはずじゃ……」
「ええ、センパイの体を楽しもうと思って帰ろうとしたんですが、忘れ物を取りに来たんです。でもまさかセンパイが私の体を堪能してくれているなんて。まさに相思相愛ですね!!」
「こ、これは……」
「本当は一人で楽しもうと思ってましたが、センパイのその気持ちに答えたいです」
頼子ちゃんは部屋にある鍵つきの机をあける。そして中から取りだしてきたものは
「2人で楽しみましょう!」
アレの形をしたものが2本。それは双頭バイブだった。
「ちょ、ちょっとそれは」
「大丈夫!2人とも、もう体はできてますよ……んん」
そういうと頼子ちゃんは一つの竿を、自分の中に入れる。
「やっぱりセンパイの体だときついですね。さあ、センパイ。楽しみましょう!」
竿をつけた頼子ちゃんが俺に詰め寄る。
「や、やめろ」
「大丈夫、その体なら簡単にくわえることができますよ」
頼子ちゃんは俺を抱きしめ、竿で俺の中に侵入する。
「ひゃあう!? あああん」
「んっ……」
二つの媚声が重なり合う。俺は大きな竿に中をかき回されていた。
「ん、あああああん!」
異物が中の壁を擦るたびに、言いようのない快感が生まれ、声をあげる。
「センパイ、イイですよ」
「や、ああ……んぅ……」
指とは全然違う。太い竿は、頼子ちゃんのテクニックもあってか、的確に自分の弱いところをついてくる。
「あ、もうイキそう……あ、あん」
「センパイ、可愛い……、一緒にイキましょう」
より密着し、腰を動かす。全身が性感帯になったように、胸、腰、触れられているところ全てから、快感が生まれる。そして
「や……もうダメ、イク、イクぅぅぅぅ!!」
「わたしも……あああああん!」
俺たちは共にイッた。
「はあ、はあ……」
「ふう……ふう…」
息があがる。何も考えられないが、頼子ちゃんの温もりは感じられた。
「センパイ……すき……すきぃ…」
甘えた声が聞こえる。
「ん……」
俺はその言葉を聞きながら、余韻に浸っていた。
「このままでいるのも楽しいかも……」
とろけた頭でそうつぶやいていた。
「それでは、互いのフリをするということで」
「あ、うん」
そういうと、田原姿の頼子ちゃんは、今度こそ本当に出ていった。
「さて……」
俺は頼子ちゃんが持っていった俺の、いや田原の持ち物からこっそりあの装置だけ抜き取っていた。
「頼子ちゃんの姿もいいけど、別人にもなりたいからな」
装置を手に取る。
「ん?あれ?」
装置をみるといつもと違う画面になっている。
「何だ?」
その画面には次のように書かれていた
『おめでとうございます。あなたは自分の立場に満足されました。よって装置の機能は停止されます』
「何だと?機能が停止?そんなバカな?」
昨日のことを思い出す。
(このままでいるのも楽しいかも……)
頼子ちゃんとレズプレイをしたときに、俺はそう思ってしまった。つまり、自分の立場に不満が無くなったと無意識で思ってしまったのか。
「どうすればいいんだよ……」
俺はその場にへたりこんだ。
その後――
小原隆志。最近は人が変わったように、めきめきと仕事を行っている。最近では会社のメインプロジェクトの推進メンバーに抜擢されたらしい。
田原真紀。人当たりの悪さが欠点だった彼女。最近ではそんな欠点も無くなるどころか、積極的に部下とコミュニケーションをとることで、良き管理者として、グループをまとめている。
そして俺。
「あ、あん……激しい…」
「センパイ…じゃなくて、頼子ちゃん。今日もかわいがってあげるからね」
「あん……、ああん」
田原となった頼子ちゃんに、毎晩愛されていた。
「気持ちイイ……あああん!!」
俺、じゃなく私は頼子。田原センパイの彼女よ。
おわり
久しぶりの『逆転』シリーズ
いつもタイトルで悩みます。
今回は装置の仕組みに気がついて、それを利用しようとする話です。
あまりダークさは無くなってしまったかもしれません。
それでは。